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第26話:騒音と活気の町



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ブーン…ブーン…

 

香苗は、耳の中で継続してなり続ける重低音の中にいた。

足はむくんでじんじんとしていた。

 

香苗は飛行機の中にいるのだ。

日本からインドへと飛び立つ長距離便だ。

 

飛行機にのってからはじめのころは、窓から写真を撮ったり珍しい機内食を楽しんだり、目の前のスクリーンで映画を探したりしていた。

しかしそれも数時間もすれば、飽き飽きしてきていた。

 

香苗は、ただじんじんとする足を座席の前の方へ投げ出し、耳の中に響く重低音に包まれ過ごしていた。

 

***

 

「じゃあ立花。明日からよろしくな。」

 

「はい、わかりました。インドの繊維工場での様子、視察してきます。」

 

香苗の会社は、次の事業で機織り物を扱うことになっていた。

海外、特にアジアの手織りの生地だ。

 

香苗はそのための視察でインドに出張することになっていた。

小さな会社で、出張は一人。

あとは現地からリモートで状況のやりとりをすることになっていた。

 

新卒で会社に就職してから一人で出張にいくなんて初めてのことで、内心どきどきとわくわくがまじりあったような、少し大人になったような妙な感覚があった。

 

***

 

ピコン!

案内音と共にシートベルトサインが付いた。

 

「皆様、この飛行機はまもなく着陸いたします。シートベルトを今一度お確かめください。」

お決まりのアナウンスと共に現地の気温や時刻が放送された。

香苗は今一度伸びをしてシートベルトを締める。

やや億劫な気分になりながらも、履いてきた運動靴に無理やり足をねじ込んだ。

 

***

 

飛行機からおり空港の外に出ると、そこは異世界だった。

むっとした空気が顔の周りを包む。

男性は皆同じような腰巻のような物をまいて、ラフな格好でじりじりと照り付ける太陽の下でエネルギッシュに働いている。

町は騒音の中だ。生活音や雑多な音に町全体が包まれている。

 

香苗はあたりを見わたし近くにいたほぼ全員の人に、初めてのものをみるような目でじぃーっと見られるのを感じながら、それでいて自分も相手のことを初めてのものを見るような目でじぃーっと見つめて、現地のコーディネーターの姿を探した。

 

何人もの現地の人の中から、会社の手配したコーディネーターと落ち合い、ホテルまで車で送ってもらう段取りを確認した。

他の旅行者や現地の人にも迎えが来ていて、各々車や、人がこぐ自転車のようなものの後ろにのって空港を後にしていた。

 

ビーッ!ヴヴーッ!ビーッ‼

あたりは空港を降りたときからずっと車のクラクションの音でいっぱいだ。

クラクションが鳴っていない時間がない。

ここの人は、すぐにクラクションを鳴らすのか?など変に冷静に、初めての状況に順応しながら香苗はホテルまで移動した。

 

車の中でも暑さが身を包み、じりじりと焼ける空気が肌にまとわりつくのを感じていた。

 

***

 

「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」

 

香苗は現地の機織り工場に来ていた。

大きな工場のようで、何人もの人が出入りするのが見えた。

あたりは、工場の外でたばこを吸っている人、道路を挟んだ向かいの売店からサンダルで走ってくる人、工場の中で電話で誰かと話している人など様々だった。

 

香苗は工場の視察を始めた。

中に入ると、大きな空間に機織り機が何十台も並んでいた。

手織りといえども、その迫力は圧巻のものだった。

 

ガシャン!ガシャン!と、機を織る音が工場の内壁に響いて跳ね返る。

その奥には外から聞こえる車のクラクションの音が重なっていた。

エネルギッシュな音と暑さが入り混じったような、そんな空間だった。

 

ひとしきり現地の視察を終えた香苗は、コーディネーターと現地での問題点や改善点、現地の状況なども少し話が出来た。

体中、暑さでべとべとになりながらも、なんとかその日を終えホテルに帰った。

 

ホテルに帰ってシャワーを浴びても、香苗の眼の裏には空港で見た大勢の人、町の活気や照り付ける暑さ、工場での騒音、エネルギッシュな機織りの音と動きが焼き付いていた。

 

***

 

香苗は少し日焼けした姿で、また飛行機の中にいた。

日本に帰る飛行機の中だ。

足元には、現地で買ったサンダルを身に着けている。

 

飛行機の中は皆が落ち着いていて、冷房が効いていた。

騒音もなくあたりはしんとしている。

 

しかし香苗の心の中には、あの町の騒がしさ、騒音、照り付ける太陽、エネルギッシュな人たちの活気が確かに焼き付いていた。香苗はいつでもそれらを心の中に思い出すことが出来た。

 

そしてあの町での光景を思い出すたびに、さあ、自分もまた頑張ろうと、そう思う気持ちが熱いエネルギーと共に心にともるのであった。

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