週末になり、香苗はまたロッジに足を運んでいた。
半ば自分の仕事かのような使命感と共に、真くんの栽培したハーブの仕分けに取り組んでいた。
ハーブを見ていると、取り除くべき不純物にピントが素早く合う感覚も好きになっていた。
「それ、無理しなくていいんだよ。本当は俺がやらないといけないことなんだから。」
真くんは香苗を気遣って声をかけてくれるが、香苗はこの作業が好きになっていた。
ロッジに差し込む光の中で、木とハーブの香りに包まれながら心が静寂になっていく、この感覚が好きになっていたのかもしれない。
「うん。好きでやってる。」
香苗はぶっきらぼうに答えた。
家にいても特にやることもないし、それならここに来て自然に触れ、真くんと話している方が楽しいと思えた。
真くんは、キッチンのカウンター越しに香苗の斜め向かいに座り、自分の商品のネームタグや紹介カードなどを準備していた。
「ねえ、真くんはさ。手を出さない相手って決めてるの?」
ふと、気になってピンセットを動かしながら聞いてみた。
「手を出さない相手って、カウンセリングの?」
「そう。」
真くんは、霊能を生かして人の相談にのる仕事もしている。
この間、真くんの知り合いの林さんという人が大変な目にあっていたのを見たので、気になって聞いてみたのだ。
「ああ、俺は…そうだな。
この間のようなこともそうだけど、うーん、手を出さない相手というか、手を出さないテーマは決めているかな。俺は人の生き死にに関することは、見えても言わないようにしてるね。」
みえても言わない…。
みえるのか…。いわないのか…。
「ふう~ん。」
香苗は若干動揺しながらも表面的に答えた。
そういえば、この間の妙子さんの話のときも、人の寿命に関することは手を出さないとか言ってたっけ。
「あとは…。見せてもらえないこともあるんだよ。
なんていうか、相談者さん自身が俺のことを疑っていたりとか、見られたくないと思うでしょ、そしたらうまく見えなくなっちゃうんだよね。心を開いていない人の心の中はよく見えないというのかな。うん。」
「フーン、そうなんだ。」
「そうね。例えば、天にお伺いを立てても、その人自身が隠したいと思っていることだったり、見られたくないという思いが強ければ、見えないこともある。そこをこじ開けて勝手に見ることは、俺はないからね。」
香苗は少し安心した。
こうしてカウンター越しに座っているだけで、香苗の普段の恥ずかしい事件や知られたくない事実まで見られてしまうんじゃないかと気になっていたからだ。
「いまは林さんのおかげもあって、だいぶ適切にコントロールできるようになってきたから。見ようとしないと見えないし、スイッチを入れているとき以外は普通の男性と変わらないよ。得手不得手が人と少し違うだけじゃない?」
真くんは勝手に人の心をのぞき見していたわけではなかった。
香苗はそれを知り少しほっとした。
彼はただの男の子なんだ。