カラン、コロン、カラン…
入口のドアベルが音を立てて一人の女性を迎え入れる。
40,50代の女性で、年相応であるが肌はきれいに見える。
わりに色白で、瘦せているとは言えないが小ぎれいにしている。レースのブラウスに柔らかな紫色のチュールスカートをはいている。
「妙子さん。」
キッチンスペースで真くんはコーヒーを入れていた。
「こんにちは。元気だった?」
「占いのカード、デザイン見てほしくて。」
妙子さんは、真くんのお父さんの再婚相手だった。再婚して数年して、お父さんは亡くなった。
普段は助産師の仕事をしながら、占い師やカウンセラーとしても活動している。
アクセサリーを作るのが趣味で、得意だ。
今日も、自分で作った金色の月のネックレスを身に着けている。
「どうぞ。ちょうどコーヒー、入れたとこだから。」
真くんは妙子さんにコーヒーを入れながら促す。
「わあ。ありがとう。真くんのいれるコーヒーって、おいしいんだよね。」
「妙子さん、ほんとコーヒー好きだよね。」
真くんは穏やかに笑いながら妙子さんの作った占いカードを手に取る。
「素敵じゃない。色合いもきれいだし。」
「そう。だけどここがね、ここんとこ。いまいち絵と解説文がしっくり来てないんだよね。」
妙子さんは、自分の作ったカードの相談をしている。
妙子さんが再婚したとき、真くんはまだ十代後半だった。
そこから数年一緒に過ごして、お父さんは亡くなった。
もしかしたら真くんは、長く一緒にいられなかった妙子さんにもお父さんの思い出を残してあげたくて、ロッジを運営しているのかもしれない。
ひとしきり真くんと、この絵が素敵だとか、この言葉って意味がわからないと言い合ってカードの相談を終えた妙子さんが、まだ湯気の残るコーヒーを片手に続ける。
「真くんはさ。私がお父さんと出会ったとき、あまり体調がよくなさそうだったじゃない。
人には見えないものが見えたり、その力もうまく制御できなくて、今みたいに力を生かすというより、むしろその力に吞み込まれてどこか連れていかれちゃうんじゃないかって感じだった。私は、ああ、この子の日常に存在して、少しでも元気を与えられる存在になれたらどんなにいいかって、そのとき思ったのよ。今では私も、あなたにカウンセリングされる側になっちゃったけどね。」
妙子さんと真くんが笑う。
「俺は、あのとき、うん。何が起こっているのかわからなくて、苦しくてね。
だけど確かにあの時の生活の中には妙子さんがいてくれたと思うよ。今は、そうだね。自分と同じような人とか、苦しんでいる人の助けに少しでもなれたらなって思ってる。妙子さんみたいな占いの能力は、ないけどね。」
再婚してまもなく妙子さんは夫を失ったけど、真くんのことは確かに愛すべき存在だったらしい。
真くんもまた妙子さんを尊敬していて、二人の間にはお互いを気遣う柔らかな空気が流れていた。
「カード、素敵だった。また発売になったら見せに来て。」
「うん。コーヒー、ごちそうさま。」
二人は軽い挨拶をしてそれぞれの仕事に戻っていった。