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【第20話:赤黒いエネルギーと頭痛】



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「ん…んー。」

香苗が目を覚ますとそこはロッジのソファの上だった。

見覚えのない柔らかな毛布が一枚、かけられていた。

 

まだピントの合わない目であたりを見渡すと、キッチンのカウンタに中年男性の後ろ姿が見えた。

林さんだった。

 

林さんは、真くんが過去に自分の能力の強さに苦しんでいたときに彼をサポートし、陰ながらその力をコントロールできるように導いた霊能者だ。

 

「ああ、起きたの。」

ロッジには林さんと香苗しかいないようだった。

 

「あ、あの。すみません、寝ちゃってたみたいで。」

香苗は、寝起きでまだよく知らない男性が、同じ部屋で座っていたことに妙な居心地の悪さを覚え、焦って場を取り繕った。

ソファで寝ていたせいか、頭がガンガンする。もともと頭痛もちなのもあって、そのせいかもしれない。

 

「真は外に行ったよ。よく寝てたよね、いつからいたの。」

 

いつから…。

そうだ、私は昨日、仕事のことでイライラして、仕事終わりにここにきたのだ。

そのまま、ここでたわいもない話をして…。

気が付いたのがいまだ。

 

「13時30分。」

まだ眠気眼で時計を探す香苗に、林さんは答えた。

 

昼まで寝てたのか…。

なんとなく、時間を無駄にしたような気がした。

「すみません、こんな時間まで。昨日仕事のことでイライラして、そのことを話しているうちに寝ちゃったみたいで。」

 

「僕に謝ることはないよ。ここは僕の家でもないからね。」

林さんは何のことはないといった顔で答えた。

 

「それで、仕事のことでなんだって。」

 

「あ、いやー。なにってこともないんですけど。なんだか最近忙しくて、それでいろんなことを次から次へとこなしていたんです。そしたらイライラしてきちゃって。こんなに自分は忙しいのに周りはなにやってんだとか思ってきちゃって。」

香苗は、ガンガンと痛む後頭部を抑えながら答えた。

 

「ふーん。」

 

林さんは有名な霊能者だ。

特別な能力を使って、霊視したり、相談者さんの人生相談にものっている。

もしかしたらいいアドバイスなんかがもらえたりするんじゃないかと思って、香苗は続けた。

 

「私もともとイライラしちゃうことが多くて。友達とかにもあんた短気だねって言われることもあるんです。それが出ちゃったっていうのかな。あの日は周りにもきつくあたってしまって。」

 

「それね。働きすぎ。」

林さんはこともなげに答えた。

 

働きすぎ…?それだけ?

有名な霊能者だから何かもっと、もっともらしいことを言って、人を感動させたりなんかして涙の一つでも自分はもしかしたら流せるのではないか、なんて思ったが、返ってきたのは以外と普通の答えだった。

 

カラン、コロン、カラン…

真くんが入口から中に入ってくる。

 

林さんが続けた。

「多分、君は責任感もあって仕事も一生懸命やっているんでしょう。そういう人はあまりに働きすぎたら、周りもあなたに甘えちゃってあなたの負担が増える。適度に適度に。」

 

真くんがキッチンで3人分の白茶を入れてくれる。

 

林さんは、まだ半分、眠気眼の香苗に対して続けた。

「なんでも適度が大切。真、ほら、あれなんだっけ。僕が君と、能力の制限の仕方を練習したときに言ってたこと。」

 

「ああ、あれですか。どんな特長も使い道によっては花になる、ってやつ。」

 

「そうそう、それだよそれ。」

林さんは、目をこすりながら紅茶をすする香苗に向かって話しかけた。

 

「香苗ちゃん、君はさっき自分が怒りん坊だといったね。」

 

「はい。そうだと思います。この間の仕事のときも、いらいらして周りとトラブルになりかけましたし。」

 

「それね、うまく使えばいいの。」

 

「うまく、つかう…?」

 

「うん、そうだね。それって君の特長なの。昨日はそれが悪い風に出たんだろう。だけど、たくさんの仕事があって、あなたが一生懸命にやっていて、周りがさぼっているとする。あなたが何の怒りもなしに、どんどん自分ひとりで負担を背負って仕事をしてみな。周りはさらに君に甘えて、働かなくなるよ。」

 

「そう、思います。」

 

「それは周りの成長にとってもよくないんだよね。つまり、あなたの怒りは必要な怒りということになる。真にもあるとき言ったんだけど、君の能力や特長は君のものだ。だけどその特長が強すぎたり、うまくコントロールして扱えないと、君はその特長に振り回されたり能力に飲まれてしまうことになる。だから、その怒りん坊なところを完全に除外する必要はないね。適切なタイミングで、うまく切り札のカードを切るように出していけばいい。」

 

沈黙する香苗に林さんは話を続けた。

「つまりそういう怒りも必要ってことだよ。だけど自分ひとりで頑張りすぎないよう気を付けた方がいいだろうね。意欲的に仕事をするのはいいことだけど、オレンジ色の光が自分を包んでいるような感覚で、前向きなやる気をもって健康的にしないとね。君の仕事の仕方には、赤黒い不適切なエネルギーを感じる。もっとトーンダウンして落ち着いて。」

 

香苗は、林さんに言われたことがわかる気がした。

仕事を早く進めようと必死になって、みんなで力を合わせてやっていくはずのプロジェクトも一人勇み足になっていたように思う。

自分とスピード感の合わない後輩にもきつく当たったりして、余裕がなくなっていた。

 

「自覚、あります。」

香苗はしみじみとして答えた。

 

「だけど、みんながテキパキと働いているときにさぼっている人がいて、その人たちのせいで、ちゃんとやっている人の負担が増えているのも事実です。そのせいでイライラしたりしてしまうんです。」

 

「そう。何度も言うけど、その怒りは必要だ。それがないといくらでも負担を背負うことになるからね。大切なのは、その責任感や周りを見る能力を、うまくコントロールして使うことだよ。そうすれば君はただの怒りん坊ではなくなるね。」

林さんは遠くを見ながら笑顔で答えていた。

 

「さ、悪いが今日はこれで失礼するよ。真、このレディは眠り姫だ。今晩もここで眠ってしまわないうちに送ってあげな。」

林さんはそう言って、微笑みながらロッジから出ていった。

 

***

 

香苗は、林さんの言っていることがなんとなくだがわかったような気がした。

 

自分はただの短気なやつで、人とうまく関係性を結べない欠落したやつなのかと思っていたが、林さんの目には違う形として映っていたようだ。

怒りもうまく使えば、切り札になり花になるということだろう。

しかし、その特長がうまく制御できないとその性質が暴れてしまう、ということだ。それは真くんが特別な能力を制御できなかった時に苦しんでいた状況に似ている気がした。

分野は違えど、同じことが起こっているように香苗は感じた。

 

明日からは自分も、適切な時には主張する目を持ち、それでいて周りの歩幅も確認しながら落ち着いて仕事をしていける人になろうと思った。

 

いつの間にか後頭部のしつこい頭痛は、姿を消していた。

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