「おはよ。ごめんね、こんなこと頼んじゃって。」
「いいのいいの、家にいてもすることないから。妙子さんのプレゼント、見つかるといいね。」
香苗と真くんは、妙子さんの誕生日プレゼントを探しに外に出ていた。
真くんは黒いスキニーパンツに黒のシャカシャカとした素材の上着を着ていた。
真くんは妙子さんに誕生日プレゼントを準備するつもりだったが、いつも何を買っていいかわからないので手伝ってほしい、と香苗はお願いされたのだ。
「妙子さんは、私にプレゼントなんて買わなくていいわよ~、って言うんだけどね。普段お世話になっているし、プレゼントを選ぶ時間も楽しくてね。つい張り切っちゃうんだけど、いつも何がいいのかわからなくて。」
「そうだな~。だけど妙子さんはアクセサリーやなんかも自分で作っちゃうじゃん。占いの道具ももう持っているだろうし…。」
そういいながら真くんと香苗はショッピングモールに入っている店を回った。
香苗は真くんとショッピングモールを回る時間も苦にならず、お店で商品を見る真くんの横顔を眺めたりするのも飽きなかった。
二人は、あれがいいかこれがいいか、ああでもないこれも違うと思案しながら1時間ほどモール内を見て回った。
真くんが、疲れたでしょうといって1階にあるスムージー店で香苗にジュースを買ってくれた。
周りからみたら恋人同士に見えたりするのかなあ、なんて思いながら香苗は、店の前の飲食スペースに座ってスムージーを飲んだ。
香苗がふと真くんの肩越しにスーパーマーケットのある方向に目をやると、「世界の作品店」というお店の看板が目に留まった。
「ねえ、あれ。」
「世界の作品店…。」
「なにかありそうじゃない?行ってみようよ。」
香苗はなんとなく、気になって真くんに促した。
***
店に入ると、世界中のあらゆる商品を寄せ集めたような作りになっていて、東南アジアの雑貨やヨーロッパのアンティーク小物、中国の陶器類などありとあらゆるものが無造作に陳列されていた。
店内の通路にもはみ出そうかというくらい、所せましといろんなものが置かれていた。
少しだが、時計や宝石などもガラスケースに入って販売されていた。
香苗はその中から、インドのアンティーク生地にひかれ手で感触を確かめたり好きな柄を探したりしながら楽しんでいた。
アクセサリーもアンティーク生地や海外のガラスを使用した手作りのものが置いてあり、香苗は妙に気に入り、自分用にもほしいなあなんて思ったりしていた。
真くんは、中国のものだろうか、不気味に光るコインのようなものを手に取り、値段を見たりして首をかしげていた。
***
「なにみてんの。」
肩越しに真くんの声が聞こえて、すこし驚いた。
「あ、うん。イヤリング。可愛かったから。だけど妙子さんはいらないよね。」
真くんは、香苗の肩越しに後ろから一つのピアスに手を伸ばした。
くすんだ桃色の糸がかかった本体から、トーンを抑えた青色のチェコビーズが小さく5つぶら下がった大人の女性にも合いそうな色合いのピアスだった。
「こういうの、似合いそうだよね。あの人。」
香苗は内心どきっとしたが、それを悟られないよう表情を作りながら少し離れて振り返って答えた。
「そ、そうだね。うん。いいと思う。」
確かに色合いも落ち着いていて、妙子さんにもよく似合いそうだ。
手の込んだ作りになっているし、あまり日本では目にすることのない材料も使われている。
「かわいいじゃん。」
二人は同意し、それを妙子さんへのプレゼントにすることにした。
「香苗は?なにか自分に欲しいものなかった?」
真くんは、気遣って声をかけてくれる。
「あ、うん。私は…ほしいっていうか、あのアンティーク生地が気になったんだよね。だけどほしいってわけじゃない、ちょっと惹かれただけ。こんなの売ってるんだ、って思って。」
ふーん、といって真くんは生地を手に取った。
「これで小物入れ、できないかな?」
見ると店内のポップに、生地の裁断、簡単な裁縫いたしますと書いている。
「小物入れ?何をいれるの?」
「妙子さんよく、ほら、出張で。カードや占いの本なんかを入れて持ち歩くことがあるでしょう。それを入れるのにいいかなって。」
気が付かなかった。
ただの生地だと思って触っていたが、確かにそうだ。
妙子さんは占い道具を持ち歩くことがよくある。
よく見るといろんな国の生地が無造作に置かれていて、小物入れに使えそうなものもたくさんあった。
香苗と真くんはその中からインドのアンティーク生地を選んで店の人に裁断、裁縫してもらった。
本や占いのカードを入れる簡単な持ち運び用の小物入れが出来上がった。
これで、妙子さんへのプレゼントはアンティーク生地で作った小物入れと、チェコビーズのピアスに決まった。
***
「いいものが見つかってよかったね。」
香苗はそう言った。
真くんも、満足そうだ。
「香苗は?ほしいものあったんじゃないの?」
真くんはまた香苗を気遣って声をかけてくれた。
「あー、うん。ほしいっていうか。イヤリング、あったでしょ。かわいいなって思ってみてただけ。」
香苗がそういうと、真くんはもう一度アクセサリー売り場に戻ってくれた。
「好きなの選んでいいよ、今日のお礼。」
真くんがそういった。
そんな、いいよいいよいらないからと香苗は続けたが、真くんは、いいから、といってすでに自分は他のアクセサリーを見ていた。
自分がつけるわけでもないだろうに、自分の顔にイヤリングを合わせて鏡に映し首を傾げてしかめっ面をしたりしていた。
結局、二人で耳や手にアクセサリーを合わせて、香苗の気に入ったイヤリングを一つ買ってもらった。明るく軽いピンク色をしたハート型のガラスビーズのイヤリングだった。