妙子さんはその日、カフェ リーベルにいた。
出張での占い講座の仕事に出かけていたのだ。
カフェに入るとオレンジ色の間接照明と、大きなシーリングファンが出迎えてくれる。
妙子さんは定期的に、ここカフェ リーベルで出張での占い講座をしている。
予約を取ってお客さんを占うこともあれば、自分で占いたい人に向けて方法を教える講座を持つこともある。
「こんにちは、マスター。今日もよろしくお願いします。」
「はい、いらっしゃい。今日もよろしくね。奥、あいてるから。」
妙子さんはカフェ奥の個室スペースに移動し準備を始めた。
10人くらいが座れる長机の一席に妙子さんが、道具を広げる。
今日は、1人30分程度で個人鑑定をした後、グループ講座を持つことになっていた。
「こんにちはー。」
一人目の個人鑑定のお客さんが現れる。
妙子さんがカフェ リーベルで占いをするときにはいつも来てくれるリピーターさんだった。
事前にいただいていた質問内容をもとに、妙子さんは占い結果をお伝えし、相談者さんにも満足いただけたようであった。
***
予約枠全員分の占いを終えた妙子さんは、グループ講座用の資料を準備し始めた。
集まったメンバーは7名。
すでに占い師として独立している方もいれば、単に趣味として取り組んでいる方もいる。
占いの専門会社で働いているがどうにもお客さんが続かずに悩んでいる、という方もいた。
妙子さんはひとしきりカードの説明や、鑑定結果の伝え方についてレクチャーした後に自分の考えを述べた。
「私たちは、占いを通じて自分や相手に元気になってもらいたいって、思いますよね。
私は占いって、当てることももちろんなんだけど、元気になっていただくことも同じくらい大切だと思っています。
例えば、みなさんのお客様が、私はいつ結婚できますか、と聞いたとしますよ。
そしたら、それはもちろん時期的なことも気になっているのだろうけれど、本当に結婚できるのかな、私の人生これからどうなるのかなっていう、今ある不安をどうにかしたい気持ちもきっとあると思うのね。
私たちがカードから紡ぎ出したアドバイスが、たとえ周りの人からみたら当たり前のことであっても、その本人にとってはまだ見えていない重要なパーツだったりするわけなんです。」
「私たちがそのパーツを相談者さんに伝えて、大切な相談者さんたちの頭の中の濁りを解消することが出来たら、それってとっても素敵なことだと思っています。
時には相談者さんが、毛穴の奥の汚れまで全部出し切ったみたいって、すっきりした気持ちになって帰っていただけることもある。大切な相談者さんたちが、家に帰ってからも前向きに人生を歩むお手伝いができる、それがこの仕事の素敵なところじゃないかしら。」
個室スペースの中には、満足と尊敬を包み込んだような柔らかな空気が流れていた。