「こんにちは、糸ちゃん。久しぶりだね。気分はどう?」
「さいこーだよ。今日もあそんでいっていい?」
「すみません、いつもいつも。」
「大丈夫ですよ。今日は用事がないし、一人でロッジにいてもなんだかね。」
真くんは、糸ちゃんのお母さんと庭で立ち話をしながら、太陽の下で転がるように遊びまわる糸ちゃんを眺めていた。
糸ちゃんは11歳になったころにご飯をうまく食べられなくなった。
痩せていることを本人は気にしている様子はなかったが、徐々に体重が減り、一時期は入院して加療していた。
入退院を繰り返しても症状はよくならず、悩んだお母さんが何かの折に真くんのホームページを見つけて相談にやってきたのだ。
真くんと話してロッジに遊びに来ているうちに、もちろん病院での加療の結果もあるのだろうけれど、糸ちゃんは徐々にご飯を食べられるようになった。
今も病院でフォローをつづけながら時折こうして真くんのロッジにやってくる。
「あの子、前はなにか、言われたことをしっかりやらないとっていう感じで。子供らしいところのあまりなかった子だったんです。学校の勉強でも習い事でもなんでも、先生にちょっと言われたこともまともに受け止めて。いわれたことはやらないとって、頭が固まっちゃってて。それがここに来ているときはなんだか子供らしくしてくれるっていうか、キャーキャーいって遊んで、本当に楽しそうで。病院での治療のおかげももちろんあるんでしょうけれど、私はここの存在も大きかったんじゃないかなって思っているんです。」
「それにもしかしたら、私自身がこうなっていないとだめっていう気持ちを無意識のうちにあの子に押し付けていたのかなって。ここに来るようになって、私自身も心が軽くなったような気がします。」
「そうですか。人の病を治すときって、病院で治療するのはとてもいい方法ですよね。僕もそう思う。だけどそれだけでは治らないところもあるでしょう。患者さんの日常を光で包む、心の根本を癒す、医者をしていたらできなかった仕事ですよ。
それに僕もね、こうやって相談者の方が来られて触れ合うたびに、自分の心や言葉、感性が磨かれていくように思うんです。
あの子がどこかで心のバランスをとって、楽に生きられる手助けをできる場所になれればいいんですけどね。」
真くんのまなざしが、確かに糸ちゃんの居場所をそこに作っていた。