ピロン…♪
“今日みんなでロッジにとまって星をみるんだけど、香苗もくる?”
お気に入りの動画チャンネルの視聴画面の上から、LINEメッセージの通知が下りてきた。
泊まりかあ…。
一瞬躊躇した香苗だったが、妙子さんやその他の知り合いも来ると聞いて行ってもいいかなという気持ちになっていた。
「ここの所、なーんにも楽しいこともなかったし、休日も家で動画みてるだけだし…行ってみるかあ。」
“いくー。なんか持ち物ある?”
ちょうど明日は仕事も休みだった。
香苗はロッジに泊まって皆と星を見ることにした。
***
夕方、真くんが迎えに来た。
車には妙子さんも乗っていた。
「香苗ちゃん、ごめんねー。急に誘っちゃって。」
「いえ、暇してたので。ありがとうございます。」
「この子なんで、もっと前もって言っとかないのかしらね。困るわよ~香苗ちゃん女の子なんだから。」
「ははは、悪い。」
ロッジにつくまでの道で、3人はスーパーマーケットで買い物を済ませた。
***
ロッジにはなじみの顔が並んでいた。
泊まりだなんて、と緊張していたけれど、行ってみるとあまり緊張することもなく
いつもの安心感が流れていた。
「気温が上がってあったかくなる前の方が、綺麗に見えるから。」
そういいながら真くんは、皆に料理を作ってくれた。
夜になって、香苗たちはロッジの2階のバルコニーに出た。
皆は、山のにおいがする空気を心の中にたくさん吸い込んで、今にも降ってきそうなほど夜空にあふれる星を見上げていた。
あれやこれやとお互いに話をしながら、皆おのおののタイミングで部屋に出たり入ったりしていた。
香苗も真くんと話をしながら、夜空に輝く星を見上げて新鮮な気持ちになっていた。
「私、あんまり、星をわざわざ見上げることってなかったかもしれない。」
「毎日、忙しく生きてるとね。空を見上げる余裕なんてないけど、たまにこうやって自然の中にあるものを見ると、元気をもらえるっていうか。」と真くんは話していた。
「俺、夜空に輝く星っていうのはさ。お互いが光を出し合って、相手の星に光を伝えてるって感じるんだよね。
それってまるで人間の世界でも同じで、頑張っている人や輝いている人同士がお互いに良い影響を与えあったり支え合ったりして呼応していくのに似ているなあって思うんだよ。」
「いい波動の光はいい光と共鳴するしね。お互いにいい影響を及ぼす。」
「ふーん。」
香苗は真くんの言っていることが、なんだか素敵なことのように感じていた。
仕事や生活で、最近は楽しいこともないと感じていたが、またもう一度頑張ろう、とそんな気持ちにさせてくれる言葉だった。
そんなふうにして、香苗もひとしきり夜空をたのしんだあと部屋に入り、眠ってしまった。
***
ん…?
4:30…
そうだ、昨日はロッジで皆で星をみて、そのまま準備してもらった部屋で寝たんだった。
時計を見ると朝の4:30で、まだ早朝だった。
ふかふかの布団と、見慣れない天井の景色、ロッジの気の香りに包まれて、香苗はまどろんでいた。
30分ほどかけて目をゆっくり覚ますと、香苗はロッジの外に出てみたくなった。
早朝の森の香りを味わいたくなった。
***
…?!
香苗が昨日と同じ方法でバルコニーに出ると、真くんがホットコーヒーを飲みながら外を眺めて町を見下ろしていた。
「起きてたの?!」
真くんは、それはこっちのセリフ、といって笑って香苗に毛布を手渡してくれた。
「まだ寒いから。」
「あ、ありがとう。」
「コーヒー淹れてくるよ。」
「あ、いや、いい。何もいらない。」
「そう。」
香苗はしばらく毛布にくるまって、朝の森の香りと真くんがのむコーヒーの香りや湯気を楽しんでいた。
「まだ星、みえる?」
「いやーもう見えないかなあ。」
「何見てたの?」
「そと。」
「なんか見える?」
「うーん。」
真くんはしばらく外を見下ろしながら考えて言った。
“まだ世界が始まる前の、町の動きを見ているのが好きなんだ。世の中が動き出す前のこの世界を見ているのが好きなんだよ。”
「あ。それなんかわかる気がする。」
香苗も一緒になって、世界が動き始める様子を見ながら、自分の頭も徐々に目覚めていくのを感じていた。
***