「それで、彩さんはこれからアメリカに?」
真くんは、黒のワンピースをエレガントに着こなす女性に、レストランのテーブルをはさんで問いかけた。
「そう。私はアメリカに帰ろうかなって。ほら、私は父が日本人で母がアメリカ人でしょう。これまで日本でやってきたけど、両親が離婚するって聞いて、アメリカに戻ってもいいのかなあって。」
黒髪を優雅にまいて、黒のノースリーブのワンピース姿の彩さんが答える。
「そうか。彩さんはどこに行ってもやっていけるよ、きっと成功するだろうしね。」
真くんと彩さんは、ガラス越しに外の景色が見えるレストランで最後の食事をしていた。
目の前のグラスにも外の景色が映る。
時刻は20:30だ。
外には、暗くなった街を家路へと急ぐ人、街灯の明かりを頼りに複数人でたむろして盛り上がる者、一人で缶ビールを飲みながら歩くサラリーマンなど様々だった。
「ありがとう。真くんは?医者。やめたんだって。私が色々と教えてあげたのにね。」
彩さんは真くんの顔を見ながら皮肉って笑っていた。
「ははは、医者をやめても人を治す仕事をしているのには変わりありませんよ。
あそこは大変なところだけど、あなたとの時間はいい思い出です。
これ、店の名刺。もしよかったら。」
「そう。分野は違えど、頑張ってるのね。」
そういって彩さんは、グラスに移る外の景色とレストランの暖色の明かりを眺めていた。
「離婚って大変なことよね。だけど本人たちの決めたことだし、両親はここのところ仲が悪い状態で、毎日喧嘩ばかりでね。しんどそうにしている母親を見ていると、もうこの人が幸せになる人生を求めてもいいんじゃないかなって、そう思って。」
「それでアメリカに?」
「アメリカに行くことにしたのは自分のためでもあるかな。環境を変えたいなとは思っていたんだけど、それでもまさかこうなるとはね。
自分でも予想していなかったことが人生には時々起こるじゃない。この引っ越しも、親のことがなければ起こらなかったと思う。だけどわたし、不思議とわくわくしているのよ。」
「そう。向こうでの生活もいいものになるといいね。
また、連絡して。俺は番号消してないから。」
***
帰りの車の中で、彩さんが不意に携帯を取り出した。
「ねえ、みてみてこれ。覚えてる?」
そこには頬を寄せて微笑む、白衣姿の二人が写っていた。
「急にどうしたの。事故しそう。」
「これさ、思い出なの。私このとき仕事のことで悩んでて、真くんに話きいてもらって。私もなんとかここまで来たなあって。あの後もつらいことがあったり、うまくいかないことがあるとね、この時のこと思い出して、この写真をみたら、よしまた頑張ろうってそう思えるんだよね。」
「そう、そんな風に思ってくれているなら、…良かったですよ。」
「…」
二人は無言のまましばらく車を走らせた。
彩さんは今日の深夜の便でアメリカに立つことになっていた。
車の振動と窓から見える夜景の明かりだけが二人を包む。
***
「ついた。ここでいいですか?」
「ああ、うん。ありがとう。」
「気を付けてくださいね。…元気で。」
「うん、ありがとう。じゃあね。」
二人は、ややぎこちない別れの挨拶を交わした。
「じゃあ、これで。今日はありがとう、久しぶりにあなたに会えて、嬉しかったわ。」
彩さんが車を出てドアを閉じ手を振る。
「あ、待って。あや。」
「ん?」
「これ、わすれもん。変わってないな、忘れん坊。」
真くんは車から抜いた携帯の充電器を彩さんに手渡した。
「へへへ、ごめーん。ありがとう。」
二人はもう一度挨拶をして、彩さんは空港の光に吸い込まれていった。
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